ほとんどの人が考えていない大人としての責任

相続について考えるのは死ぬ直前?

私が講演会などで遺言書のお話をすると、『まだ、早い。もっと亡くなる直前になって書けばいいのではないか』とお答えになる方がとても多いのが実情です。「遺言書を書く」=「自分自身の死に対して向かい合う」ということであり、できるだけ先送りしたいと考える人の気持ちはよくわかります。

テレビドラマなどでは死ぬ直前まで話が出来たり、病室には患者と家族しかいなかったり、あるいは死の直前まで動けたりしていますが、現実はそんなことはまずありません。一度でも家族を看取ったことのある方はご経験があるかと思いますが、人は死が近づくにつれて話はできなくなり、意識は遠のいていき、当然身体はいうことをきかなくなってきます。そればかりではなく、家族は遠くに追いやられ、管や機械や医者や看護師に取り囲まれてしまうかもしれません。

もしあなたがこのような状態になってしまったとき、自分自身の意思を表示することができるでしょうか。病気になって病院に入ってから、あるいは認知症になって施設に入ってからでは、相続について考えることも、家族と話をすることさえ難しくなります。

まだまだ元気、これからのことなんてわからない、それでも今考えておくべき理由

ほとんどの方が相続は人生の最後に考えればよいと思っている他に、不確定なこれからの状況において相続を考えることに意味があるのか?と思われている方も多いです。そのような方々は遺言について『事情や環境が変わるかもしれないから、いま書いても無駄になってしまうのではないか』というような疑問を持たれます。確かに、誰しも財産状況や生活環境に変化が起こるのは普通のことです。どんな人であっても生きている限り、多少なりとも状況や環境が変わることは仕方のないことです。状況や環境が変わる可能性がないことを確信できるまで遺言書を書く決心がつかないとおっしゃるのであれば、生きてる限り遺言書は書けないことになります。

さらに誤解が多いのは、一般の方であれば遺言書を書き直さなければならないような財産状況や環境に変化は10年に一回あるかどうかといったレベルです。相続まちなかステーションが関与した遺言書であれば、単に預貯金額が増減しただけでは遺言書を書き直す必要はありません。生命保険やがん保険などと同じように、早いうちから自分や家族のためにしっかり備えて、あとは必要に応じて見直していくという感覚で気楽に捉えてみてはいかがでしょうか。

このタイミングで相続、遺言を考えよう

相続をそのうち考えようという漠然とした考え方では、結局決められずに時間ばかりが過ぎてしまい、結果的に遺言を書くことができなかったというケースがほとんどです。そこで、参考になるいくつかの目安を挙げてみたいと思います。

まず、離婚・再婚の経験がある方は、不動産を所有したら遺言書を書くかどうか検討されていいでしょう。相続トラブルの9割以上は、分割が容易でない不動産が原因となっており、さらに離婚・再婚経験があるということは、予期しない人が相続人になる可能性が極めて高いからです。離婚・再婚経験のある方は、35歳を過ぎたら相続について意識し始めても決して早すぎるということはありません。

  • 離婚・再婚経験のある方で不動産を取得されたとき
  • 離婚・再婚経験のある方で35歳以上の方

また、離婚・再婚経験のない方であれば、次のようなタイミングで遺言書をお書きになることを考えてみてはいかがでしょうか。

  • サラリーマンや公務員などの方であれば、定年を迎えたとき
  • お子さん全員がご結婚されて独立の世帯になったとき
  • 年金の受給を開始したとき

そして、遺言書を書く最後のチャンスは

  • あなたが75歳のお誕生日を迎えられたとき

75歳以上の4人に1人はいつ認知症を発症してもおかしくないというデータが報告されています。元気なうちに自分自身の要望や想いを遺言書にまとめるのは、個人差があるにせよ75歳がタイムリミットになると考えて間違いありません。